【×Marketing】vol.7
宣伝費や新作ゲームの1年後の成長までも予測。バンダイナムコエンターテインメントが取り組む、最先端のデータマーケティングを取材

バンダイナムコエンターテインメントといえば、30以上ものスマートフォン向けゲームを運営しているゲーム企業。オリジナルタイトル(自社IP)はもとより、人気漫画(及びアニメ)を題材にしたタイトル(他社IP)など、多種多様なゲームを取り扱っています。

同社のマーケティングでは、原作ファンの心をくすぐる懐かしくも、夢のような施策を実現するなど、ユーザーに寄り添った取り組みが多いのも特徴です。一方、2020年4月には、「データマーケティング課」を立ち上げ、ネットワークを介したゲームの運営・マーケティングの効率化、最適化も目指しています。

定性・定量、双方の取り組みで自社の(スマートフォン向け)ゲームを売り出す、バンダイナムコエンターテインメントのマーケティング術を取材しました。

株式会社バンダイナムコエンターテインメント
ビジネス戦略室 マーケティング推進部 データマーケティング1課
アシスタントマネージャー
橋本貴大 氏(写真右)

株式会社バンダイナムコネクサス
データ戦略部
ゼネラルマネージャー
松浦遼 氏(写真左)

[Topics]
■IPの現況や新作ゲームの1年後の成長までも予測
■“該当IPの経済圏”までを俯瞰して調査
■新規獲得・休眠復帰、宣伝費の予算までも予測

 

IPの現況や新作ゲームの1年後の成長までも予測

――本日はよろしくお願いいたします。まずは、おふたりのご担当から教えてください。

橋本:私は昨年(2020年4月)立ち上がったばかりのデータマーケティング課に所属しています。主にスマートフォン向けゲームのマーケティングを担当していますが、一部ではFree to Playのコンシューマタイトルも担っています。

「データマーケティング課」とは、データを発着点として主に販売マーケティング戦略を考えていく部署です。弊社では30以上ものアプリを運営しているため、さまざまなデータやノウハウが蓄積されています。それらを我々の部署で横串に刺して見ることで、ターゲット像が明らかになったり、確度の高い施策の立案に繋げることができます。
  

――データの分析だけではなく、施策に繋がる内容も考えられるのですね。

橋本:はい。部署名には“データ”の文字がありますが、数字をもとにした分析だけではなく、具体的なターゲット戦略まで考える、ひとつの業務に固執しないオールラウンダーの側面も持ち合わせています。一方的にデータの活用だけを促すのではなく、施策までのプロセスを確立し、その成否までも分析することが重要だと考えているのです。

また、我々は新設されたばかりの部署のため、お客様に向けた施策のみならず、臨機応変に動きながらも社内にデータの考え方をどう浸透促進するかなど、社内向けのミッションもあると思っています。
  

――松浦さんはいかがでしょうか。

松浦:私は、グループ会社のバンダイナムコネクサス(以前の社名は株式会社BXD)のデータ戦略部に所属しています。橋本のデータマーケティング課が具体的な戦略内容を考えるとすれば、我々はその手前にあたる「事業の意思決定を行うためのデータ分析」という上流から下流までを一貫して担当しています。

橋本:実際に我々のほうからデータ活用の相談もしています。
  

――おふたりともデータを取り扱う部署ですが、具体的にどのように活用されているのでしょうか。それぞれ取り扱うデータも異なるのですか。

橋本:取り扱うデータは異なりますが、基本的に松浦の部署とは合同案件として一緒に動くことが多いです。たとえば、IPタイトルであれば、現在のメディアミックスの状況や、これまでの取り組み、ファンの属性、ゲームに与える影響など、データに基づいてそれらを“予測”できるシステムを導入しています。

これら予測を主にバンダイナムコネクサスのチームが担っています。IPの過去のデータを突き合わせて需要予測を出したり、新規タイトルのリリース1年後がどれほど成長しているのかなど、最先端のマーケティング戦略を提示できています。
  

――新作のリリース1年後の成長の度合いを予測できるのは、なかなか出来ることではありません。ちなみに、その精度に関してはいかがですか。

松浦:すでに実用化はされていて、ある程度良い精度が出ています。ただ、なかには他社IPタイトルの原作が大ヒットし、その盛り上がりまでは予測できないケースはありました。
  

――社会現象は予測できない反面、嬉しい悲鳴でもありますね。

松浦:はい。また、我々はグローバルで展開しているため、北米やアジア市場のIPの盛り上がりなども嬉しい誤算ではあります。

一方で、上振れはありがたいことですが、弊社が考える以上にIPのポテンシャルが高かったことの裏返しなので、それに見合うコンテンツや施策を提供できているのか、機会損失にはつながっていないのかなどは、振り返るところはあるかと思います。

 

“該当IPの経済圏”までを俯瞰して調査

――御社では、数多くのスマートフォン向けゲームを運営されていますが、共通しているマーケティングコンセプトなどはあるのでしょうか。

橋本:まずIPタイトルを数多く展開しているため、IPのコアバリューをきちんと意識して、さらにデータとして理解するようにしています。そのIPがなぜ人気があるのか、これらを我々は言語化できなければなりません。

自社のゲームタイトルだけに気を配っているのではなく、“該当IPの経済圏”までを俯瞰して調査、情報を追う必要があるということです。
  

――いま原作側がどういう状況か、グッズや映像化などほかのメディアミックスはどう盛り上がりを見せているのかなど、該当IPの現在のポジションを把握することで、ゲーム側でもタイミングを見てマーケティング施策を仕掛けられるということですね。

松浦:はい。既存IPの特徴は、すでに一定数のファンがいることです。たとえば、IP主導のメディアミックス施策が盛り上がりを見せたときに、ファンの熱量を最高潮にするための施策をゲーム側で考えるなど、IP単位で物事を考えるようにしています。

これは決して相乗りではなく、該当IPのファンが喜んだり、熱量が上がったりすれば、結果的にゲーム側にも返ってくる、いわば好循環につながるものだと思います。

自社IPに関しては、ファン(ユーザー)の属性やキャラ・世界観の反響が分からない状態で始まるので、ゲーム初出時期やリリース後の初動のお客様の動きをつぶさに見ながら、戦略を立てていく形になります。
  

――他社IPタイトルのターゲットユーザーは、新規というより、基本的には原作ファンにアプローチするのでしょうか。

橋本:そうですね。一方で、ゲームを起点にIPファンの盛り上がりにつながるケースも過去にありましたので、もしかすると、ゲームからそのIPを知ったり、好きになったりして、原作やほかのコンテンツに触れる機会にもつながるのではないかと思います。

たとえば、とあるIPタイトルの原作の魅力がバトルだとします。そのバトルをほかのファンたちと共有したり、一緒に遊んだりできるのはゲームならではの体験です。

そして、我々のほうでバトルに根差したゲーム内外の施策を打ち出せば、ゲームを通してファンの方々にIPの魅力を感じてもらうこともできます。IPをお預かりしている我々としては、そういう取り組みはひとつの使命だと感じます。
  

――実際に御社が手掛ける他社IPタイトルでは、原作ファンだからこそわかる、細かいネタをTVCMやキャンペーン施策に取り入れることが多々あります。それこそ、主役級のキャラクターではなく、原作ファンからの根強い人気がある脇役キャラをCMに起用するなど。

橋本:はい、あります。ユーザーの属性だけを理解しても意味がなく、ユーザーの“気持ち”までを理解しているからこそ、そういう施策やクリエイティブが生まれるものだと思います。

社内でも、ファン(ユーザー)のニーズを探る動きも活発化していて、「なぜこの作品が好きなのか」「なぜイベントに参加すると熱量が上がるのか」「気持ちの根底にあるものはなにか」などを理解することで、我々ゲーム側のコンテンツも作られていきます。

松浦:他社IPタイトルでいえば、ゲーム側の休眠復帰はよくある話ですが、おそらくIP側にも休眠ユーザーもいるのではないかと考えています。なかでも長期IPは、「原作を読んだことあるし、キャラもストーリーも好きだけど、〇年前のこと…」とライフサイクル的に凪の状態になってしまいます。

そこをどのようにリブートしていくのかは、IPのライフサイクルに基づいて、「〇〇の年代のファンはここに魅力を感じていたので、次のキャンペーンではこのキャラを起用して、こういう施策を打ち出してみよう」などを考えています。

橋本:それぞれの年代で該当IPに関わるきっかけ、捉え方、接触経験は全く異なります。長期IPであれば、原作をリアルタイムで追っかけていた40代もいれば、最近放送されたTVアニメ版でファンになった10代もいます。

そこを理解しないで、一概なターゲット戦略で含んでしまうと、結局どこの層にも刺さらない取り組みで終わってしまう。そういう取り組みは決してユーザーファーストとはいえないので、すでに多くのファンが存在するIPだからこそ、ユーザー理解のために、深掘りする必要があるのです。

 

新規獲得・休眠復帰、宣伝費の予算までも予測

――それぞれの部署で取得したデータは、マーケティング施策のみならず、開発・運営側にも共有して、ゲーム内イベントやコンテンツの改修などにも役立てているのでしょうか。

橋本:はい。実際に開発・運営側と連携する機会も増えてきています。新規タイトルの初動の状況や改修点はもとより、既存タイトルでは運営において今後の分岐点になりそうなチェックポイントを洗い出すなどの情報共有を行っています。

松浦:さながら、データを活用した“ゲームタイトルの健康診断”のようなものです。ユーザーインタビューを通して状況を把握する定性調査、ゲームのログデータを分析しながら課題を抽出する定量調査、その両輪を持ち合わせることで該当のタイトルが健康なのか、改善点がないのかをチェックできる体制を社内で整えています。
 

――開発・運営側としては、いまなにが問題で、具体的になにを解決するのかが明瞭になりますね。課題解決までのスピード感も向上したのではないでしょうか。

橋本:はい、変わってきたと思います。「売上や流入が落ちている…」と、ネガティブな状況でさえも、きちんとデータを用いて問題点を指摘するのも我々の役目です。
  

――昨今のゲームアプリ市場では、新規獲得の難度が上昇し、継続率を伸ばすことや、休眠ユーザーの復帰などの重要性も高まってきています。

橋本:離脱要因の分析は細かく行っています。ゲーム内のコンテンツ・仕様の見直しはもちろんですが、呼び戻すためのプロモーション施策において、どのくらいの予算をかける必要があるのかを予測するところまで進めています。

――プロモ施策の予算までもデータで分析するのですね。当然、各社も予算のかけ方は過去のデータに基づいて試算していると思いますが、みなさんが言うと、その確度の高さもかなり異なるのかなと思います。

橋本:宣伝費のかけ方は各社の悩みだと思います。それも新規獲得や休眠復帰など、対象ユーザーが異なればなおのことです。弊社では、過去の詳細なデータやタイトルの特性、IPの盛り上がりなどに基づいて、「この予算ならこれくらいの獲得(復帰)が見込めるだろう」という定量的な結果までも確認できるような取り組みを進めています。
  

――それは助かりますね。

松浦:デジタル広告でも、「これ以上広告出稿を続けても、このタイミングで飽和状態になり獲得は難しくなる」「コストが上がってくる」などが見えてきます。
  

――最近では、既存ユーザーのエンゲージメントを高める施策として、マーケティングあるいはマーチャンダイジングの重要性も挙がっています。たとえば、ファンの声や行動などを調査し、具体的なゲーム内施策やメディア連動などに活用するケースはあるのでしょうか。

松浦:実は、ちょうどそこにも力を入れているところです。とあるタイトルでは、ECサイトの売れ行きやリアルイベントの反響などが、ゲームにダイレクトへ反映されるケースがあります。

実際にゲームをたくさん遊んでいるお客様のなかで、リアルイベントに参加するとゲーム側への熱量も一気に上がる現象が確認されています。一方でイベントになにかしらの事情で参加できないお客様の熱量は上がりづらくなるということもわかってきています。

現在は、イベント参加後のお客様がゲームに訪れたとき、どのような状態であれば更に満足していただけるのかを、開発・運営チーム含めて調査を進めています。

橋本:マーケティング戦略でいえば、IPファン市場から考えることが定石になりますが、昨今のゲーム業界ではコアファンの深い心情からインサイトを抽出して、それらを広げて戦略につなげていくことも必要ではないかと考えます。最近はリアルイベントの開催も難しいですが、それでもお客様の声は拾えるようには設計しています。
  

――御社では、ひとつのIPで複数のゲームアプリを展開することがあります。ゲーム自体のカニバリズムの心配もある一方で、マーケティング施策では個々のタイトルで行うのか、ほかの同一IPタイトルと一緒に打ち出すのかなど難度が高いものだと思います。

橋本:ゲームとしては、コアコンテンツや体験そのものが異なるので、それぞれ独自の価値を提供できていると思います。ただ、それも企業側の都合にもなりえるので、たとえゲームジャンルが異なっても、お客様が「同じものだ」と受け取ってしまえば、結果的にカニバリが生まれるものだと思います。

だからこそ、データマーケティングを通して、ゲーム性の違いや各々の魅力を齟齬のないように打ち出す必要があります。この要素を鮮明にしていくことは非常に重要だと私たちは考えています。

松浦:カニバリが生まれないような打開策のひとつとしては、それぞれのタイトルで波を交互に形成させる、つまりは盛り上げの時期を被らないように展開することがあります。

ただ、一番いいのは各タイトルがコンセプトレベルで住み分けがきっちりできている状態です。これは我々データマーケティングを扱う部署だけではなく、事業視点として大切にする必要があります。

――そういう意味では、データマーケティングは各タイトルの施策のみならず、事業レベルでも活用が始まっていることでしょうか。たとえば、「このIPでゲームを出すときには〇〇を…」などというように。

橋本:まだ構想段階で、これから動き出すところではあるのですが、今後頑張っていきたい領域ではあります。
  

――該当IPの複数タイトルをクロスプレイしている傾向もあるのではないでしょうか。

橋本:クロスプレイしていることもありますが、逆にカニバリが起きてしまっているケースもあります。そこの解明も進める必要があります。
  

――それでは、最後に読者へメッセージをお願いします。

橋本:データマーケティング課は、お客様の事をとことん理解する専門チームです。スタッフ数も立ち上げた1年前と比較して、2倍に成長しています。

すでにゲームアプリ市場は群雄割拠の時代に突入しています。タイトルを継続的に遊んでいただく為には、お客様の理解に基づいた、魅力的な体験に繋がるマーケティングがより一層求められます。その結果、ゲームのみならず、お預かりしているIP全体に良い効果をもたらせていければと思います。

松浦:プロダクトに対してどれだけ深く潜れるのか、そしてきちんとIP全体を見渡すことができるのか……この深さと広さを両立したいと思っています。

昨今、ゲームのクオリティは日進月歩の状況です。その品質向上に対しても、データ活用は貢献できると考えています。お客様が楽しまれているコンテンツ・IPへの理解を、事業をまたいだバンダイナムコ全体、ひいてはエンタメ業界全体という観点から突き詰めていきたいと思います。

――ありがとうございました。

 

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