【×Marketing】vol.3
『東方LostWord』東方Projectへのリスペクトから始める”常識”を越えた施策。マーケティングが資産になる独自の視点とは


ゲームアプリ市場における先進的なマーケティング施策を取材した企画「×Marketing(かけるマーケティング)」。“掛ける(相乗効果で可能性無限)”と“駆け抜ける(新しい挑戦/気概)”をコンセプトに、習慣化しがちなゲームアプリ市場のマーケティング施策について、最新事例はもとより、一般化につながるノウハウをマーケターたちにお聞きしていきます。

▲山岸 聖幸 氏:株式会社NextNinja代表取締役CEO、『東方LostWord』プロデューサー。ゲーム全体の企画・開発・運営を行う。

第3回目は、株式会社NextNinjaの創業者であり『東方LostWord』のプロデューサー・山岸聖幸氏に「東方Project×マーケ資産」をテーマにお話を伺いました。

[Topics]
■すべての根幹に原作への敬意を
■資産化を意識したマーケティング戦略
■スピード感の秘訣は”軽く”始めること


すべての根幹に原作への敬意を

――:『東方LostWord』リリースまでの流れを教えてください。

山岸:昨年7月19日にグッドスマイルカンパニーとNextNinjaの共同プロジェクトとして『東方LostWord』を発表させて頂きました。開発期間は約1年で、近年のソーシャルゲーム開発が2、3年かかることを考えると、かなり短期間となっています。

『東方LostWord』は、同人サークル「上海アリス幻樂団」が展開する人気コンテンツ「東方Project」を原作とした二次創作RPG。”幻想郷”と呼ばれる世界を舞台に、東方Projectおなじみのキャラクターたちが活躍する。二次創作として作られたイラストや楽曲を多く使用しているのが特徴。

――:もともと企画を提案したのは?

山岸:グッドスマイルカンパニーさんとの話し合いの際、僕が「IP作品を作りたい」と相談したんですよ。そこで「東方Project」はどうか?というお話しになり、そこから企画書を作り、版元さんに企画をお持ちし、了承いただき、プロジェクトがスタートしました。


――:「東方Project」という一大コンテンツの二次創作作品を開発する際、どのようなことを心がけましたか?

山岸:「東方Project」は、ZUNさん(東方Projectの原作者)が20年以上作り続けている、とても素晴らしい作品です。pixivに投稿されているイラストは約225万枚、二次創作楽曲は約10万曲、そのほか漫画や小説、ゲームなど、様々な分野で多くの方々が二次創作作品を作っているコンテンツです。つまり、すでに多くのファンがいる世界なんです。そこで、僕たちは「東方Project」が大好きな方に「面白い!」と思ってもらえるRPGを提供したいと考えました。

IP作品では当たり前の話ですよね。しかし、僕たちは今一度原点に立ち返って、原作をプレーし、原作を体験する、面白さを知るところから始めました。また、二次創作作品であることをわかりやすくお伝えしようと思い、具体的な例として、「東方Project」のロゴをアプリ起動時に出すようにしました。


――:東方Projectの世界観を第一にしたと。

山岸:そうですね。ほかにもキャラクター登場時には、そのキャラになるべくあった二次創作楽曲が流れるようにしています。普通は専用の音楽を書き下ろすところですが、私達は今存在する二次創作楽曲の使用許諾を頂き、その楽曲を積極的にゲームに取り入れることにしたんです。そして、各キャラクターのボイスは3種類用意しました。

「東方Project」のファンの方たちは、それぞれキャラの声にイメージを持っているため、こちらが決めたCVでそのイメージを崩さないようにCVを複数用意し、かつ”CVナシ”というモードも用意させて頂きました。また、CVを選ぶ際、あえて声優名を表示させていません。もし名前を出すと、その声優さんのイメージがキャラクターに付いてしまいます。あくまでお客様に、声を聞いて選んで欲しかったからです。

――:前代未聞の施策ですよね。

山岸:マーケティングの観点で言うと、声優名を表示させることで固定の声優ファンの方たちにも遊んで頂けるきっかけが作れると思います。しかし、これまで培われた作品、作品ファンの方たちのなかにあるイメージを崩さないことが、最も優先すべき事項だと思いました。結果的に、お客様が「声を選べるの!?」と、驚いて頂ける仕様にできました。

ひとつの考え方として、僕たちは『東方LostWord』で、何かが完結するのではなく、「東方Project」の二次創作作品の一つとして、プレーしてもらい、「東方Project」を知るキッカケを作れたら嬉しいなという点も考えました。ゲームで毎月キャラクターを提供しますが、その際にキャラクターのストーリーもあわせて提供することで、そのキャラクターに関連している事柄をお客様たちが検索して見つけてもらうと、そこではじめて、あ、このことをいっているのだとか、こういう意味なんだとか、いろいろなものに辿りつく。

なんといっても、「東方Project」には約20年間蓄積されたものがありますから。これこそ、二次創作作品の在り方だと思っているんです。こういう点が一般的なゲームと違うポイントじゃないかなと思っています。


資産化を意識したマーケティング戦略

――:次にリリースまでの施策について聞かせて頂きます。事前登録やTwitter運用などはどのように行いましたか?

山岸:先に結果を申し上げますと、リリース時点で事前登録者数は約50万人、Twitterのフォロワー数は約25万人となりました。ただし、「東方Projectを好きな方」に集まって欲しいという思いがあったため、通常の運用とは異なる点が多いと思います。

例えば、「予約トップ10」の担当者に「作品登録後2週間以内なら、無償でユーザーにPRメールを送れますよ」と言って頂いたんですが、僕は「送りません」とお返事させて頂きました。なぜなら、「東方Project」が好ではない方にも届いてしまうからです。あくまで僕らがはじめに興味を持って頂きたかったのは東方Projectを好きな方だけなので、無料の施策であってもしません、と。

代わりに注力したのが、Twitterの公式アカウント(@Touhou_LW)で、 毎日必ず18時に何らかの情報を届けるようにしていました。それはゲームの内容やキャラクターの紹介であったり、壁紙配布やキャンペーン告知など様々です。そうすると、少しずつ「東方Project」が好きな方のフォローが増えてきて、なにかキャンペーンを告知すると数万のRTに達するようになりました。こちらのほうが確実に関心を持っている方へ訴求でき、広告効果が高いと思います。


――:Twitterでファンを獲得できれば、後々大きな財産になりますしね。

山岸: はい。ゲームをリリースしたあとも、ひとつの情報媒体として使って頂けます。安価な費用で事前登録者が増えると見栄えはいいかもしれません。しかし、僕らが作る『東方LostWord』においては、それは正しくないんです。あくまで関心を持っている方への訴求にこだわり、そこに対してのみプロモーションをかけたかった。だから、「東方Project」関係のイベントや生放送には、スポンサーとして積極的に参加させて頂きました。

明確なターゲットがいて、その方々に訴求する。マーケティングって、本来そうじゃないですか。


――:”お客様の濃さ”を保っておきたい、ということでしょうか?

山岸:そうですね。もし「東方Project」を知らない方がプレイされたら、最初「なんで主人公が女の子限定なの?」(※)って驚くと思います。もちろん、新規のお客様たちにも楽しんで頂きたいですが、できるだけ初めは東方Projectを好きな方たちに楽しんでもらいたかったんです。

※「東方Project」の舞台である「幻想郷」は多くのキャラクターが女の子。そのため、本作では主人公(プレイヤー)の性別は女性で固定されている。

余談ですが、リリースは4月30日の18時に行いました。毎日18時新しい情報をtwitterでお伝えしていたので、30日の18時になったときにはとてもたくさんのお客様たちがダウンロードしていただき、無料ゲームではトップ、twitterの日本のトレンドにものり、当時はコロナの影響で自粛期間中だったこともあり、また他に新作タイトルをリリースされることもなかったため、無料アプリランキングで争ったのは「ZOOM」「Uber Eats」でしたね。

――:YouTubeを利用したMV施策も独特でしたね。リリース前にテーマソングのショートとフルがどちらも公開されて、かなりのPV数を記録されていました。

山岸:「東方Project」を現すものとして、音楽は外せない大切な要素です。テーマソングには、ZUNさんが作成された「東方妖怪小町」を原曲として、アレンジ・作曲・作詞を同人音楽サークル「豚乙女」のコンプさん、歌を『STEINS;GATE』などで有名な、いとうかなこさん、MVを日野太郎さんに、それぞれ依頼させて頂きました。


――:各人にどのような指示を出されたんですか?

山岸:いえ、ほぼ出していないです。豚乙女のコンプさんにはある程度ゲームの説明をさせて頂いたあと「超格好良い曲を作ってください!」と。同じように、いとうかなこさんにも「好きに歌ってください!」、日野太郎さんにも「めちゃくちゃかっこいいのを作ってください!」という具合でした。

自分が明確な指示を出すよりも、二次創作らしく作り手の方々の自由な発想でクリエイトして頂きたい。そうすることで絶対良いものに仕上がると確信していたんです。結果的にとても良い楽曲が完成し、ショート&フルを合わせるとリリース1ヵ月ほどで400万、500万回再生に達しました。

また、YouTubeだけでなく、4分尺のMVをGoogleアプリキャンペーンに載せました。一般的に、動画広告は数秒が大事と言われていますが、4分尺のものを流してみたら、予想以上の反響がありました。マーケティング視点として、この施策が最もCPIが低かったです。そのため、詳細は明かせませんが、今後この方法をもっと活用するプロモーションを用意しています。


――:お話を聞いていると、お客さんの心に残るような施策を心がけているように思えます。

山岸:これらのマーケティングはアセットだと思っています。文字通り”資産”ですが、これはお客様と僕たちの”資産”なんです。お客様に楽しんで頂けるマーケティングは”体験”として残ります。そして、『東方LostWord』ってなにか面白いことをやってくれる、という期待を得られ、さらに注目して頂ける。もはやゲームだけではなく、ゲーム外でも喜んでいただけるものを提供していきたい、総合エンターテインメントとしてお客様に提供をすることが重要になってきていると思うんです。

そこを重点的に行えば、何十億の予算を費やしたマーケティング施策にも負けません。逆に言えば、誰かの心に残るものを作らなければ、勝てずにただの一過性のコンテンツとして終わってしまうと思います。


――:費用対効果の側面からも良いのでしょうか。

山岸:はい、例えば楽曲1本に予算を使ったとして、それが500万回再生されれば、1再生あたり、……想像していただけると、とても費用対効果が良いプロモーションだと思っていただけると思います。アセットが残るマーケティングのほうが結果的に費用対効果も高いのに、単純なWEBマーケティングに力を入れてしまうケースが多い気がします。

その理由は、テクノロジーが優れ過ぎているから。不特定の人に対して楽にアプローチできるからと利用しがちですが、どのタイトルでも同じ結果にしかならず、それはやがてコンテンツの疲弊に繋がりかねません。本当は、そのコンテンツが好きなお客様に対して、その面白さを届け、好きになってもらうのがマーケティングの本質だと思うんです。これは『東方Project』の二次創作だからではなく、すべてのタイトルにおいて僕たちは重要視しています。


スピード感の秘訣は”軽く”始めること

――:ターゲットを明確に絞るために大切にされていることはありますか?

山岸:当たり前のことですが、お客様になり得る人たちがいる場所を見ることです。それはイベントであったり、SNSのコミュニティであったり。みなさんが何を話して、何を望まれているのか。

『東方LostWord』の場合は、「例大祭」と呼ばれる年2回の東方Projectオンリー同人誌即売会に足を運んでいましたね。お客様の熱がある現地の情報は、最も参考になります。


――:多くのゲーム会社さんは前もって立てた計画に沿って施策を実行していますが、山岸さんは臨機応変に、その都度何が一番良いかを考えていらっしゃるように思えます。

山岸:ライブ感はとてもありますね(笑)。もちろんグッドスマイルカンパニーさんと相談しながらですが、僕が意思決定をさせて頂ける状況にあるので、スピーディに事を進められています。

あとは思いついたことを、まずは軽く始めることを大切にしていますね。例えばFacebookの知人に相談してみるとか。進めていくと出来るか出来ないかも、すぐに判断が付きます。頑張ったら大変じゃないですか。しっかり調査して、エビデンスやリスクがどうのとか。重く始めて、いざ進めた結果、上手く成立まで至らず時間だけ取られることがあります。

NextNinjaは稟議がないうえに、僕自身が軽く始めるので、結果的にライブ感を持ってスピーディに施策を実行に移せていると思います。


――:今後の展望について教えてください。

山岸:8月下旬から新しい施策を用意しています。詳細は伏せますが、同様の施策をにおいて過去一番の記録になると確信しています。ぜひ、期待してほしいです。ほかにも、お客様から頂いたアンケートを元に、望まれているものを重点的に実施していこうと思っています。あとは海外配信なども行っていきたいと思っています。


――:その他の新作も動いていらっしゃると思いますが、スタッフ数は現在どのくらいの規模なのでしょうか。

山岸:『東方LostWord』に関しては、リリース時は30名、現在は10名増えて40名ほどですね。ただ、『東方LostWord』の海外配信や新作の制作なども控えていますので、現在絶賛スタッフを募集中です。今うちはゲーム開発に特化した組織になっているので、管理部分が弱い。なのでマネージャーが欲しいところですが、基本的に全職募集しています。

国内外の知見を持ちたいという方であれば、良い環境を提供できると思います。最近は短命で終わるタイトルが多いじゃないですが、そうすると運用ノウハウが身に付きません。ちゃんと作って、ちゃんと運用したい、そういうスキルを身に付けたい方は、ぜひご応募頂けると幸いです。


――:本日はありがとうございました。

株式会社NextNinja

取材・執筆:長戸勲
撮影・編集:NEXT MARKETING編集部

 

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