
ゲームアプリ市場における先進的なマーケティング施策を取材した企画「×Marketing(かけるマーケティング)」。“掛ける(相乗効果で可能性無限)”と“駆け抜ける(新しい挑戦/気概)”をコンセプトに、習慣化しがちなゲームアプリ市場のマーケティング施策について、最新事例はもとより、一般化につながるノウハウをマーケターたちにお聞きしていきます。
第5回は、アソビモ株式会社が手掛ける新規タイトル『ETERNAL(エターナル)』のプロデュ―サー・守田弘道氏と、マーケティング部 広報宣伝チーム リーダー・北村青樹氏に「国産MMORPG×マーケ戦略」をテーマにお話をうかがいました。
新作『ETERNAL(エターナル)』は、2020年12月15日にリリースを控えている大型“国産”MMORPGです。同作はキービジュアル、キャラクター・モンスターデザインに天野喜孝氏の起用をはじめ、主題歌にLUNA SEA、ゲーム内サウンドにMONACAと、日本を代表するトップクリエイターが参画したことで注目を集めています。
また、スマホ向けMMORPGの先駆けタイトル『アヴァベルオンライン』は、現在もなお人気を博している、正式リリースから今年7周年を迎えた長期運営タイトルです。


[Topics]
■新生MMORPGとしての新たなブランディング戦略
■ユーザーへの“サプライズ”を忘れない
■入念な改善で気付いたASOの重要性
新生MMORPGとしての
新たなブランディング戦略
――本日はよろしくお願いします。まずは『ETERNAL(エターナル)』の開発経緯について教えてください。
守田:私はもともとスマートフォン向けMMORPG『ステラセプトオンライン』のアートディレクターを長年担当していました。そして数年前、同作の体制変更に伴い、弊社代表から「新しくプロジェクトの立ち上げをやってみないか」と声がかかったのを期に、『ETERNAL(エターナル)』のチームを立ち上げました。
ただ、当時はチーム内にまだ駆け出しのクリエイターしかおらず、チームメンバーの育成と一緒にプロトタイプを開発していきました。社内レビューを終えて、プロジェクトが本格始動するタイミングには、人員も増えていき、開発チームも盤石な体制となりました。
――ノウハウを教えながらプロトタイプの開発を進めることに加えて、デザイナー出身からプロデューサーに転身するのもまた珍しいですね。
守田:そうですね。私は、元々デザイナー出身なので、当然『ステラセプトオンライン』ではデザイン業務のほうに注力していました。一方で、当時からマネジメント業務や、長年アソビモのスマートフォン向けMMORPGに携わっていることもあり、新規プロジェクトの立ち上げの際、おそらく私に白羽の矢が立ったのだと思います。

――『ETERNAL(エターナル)』と他作品との差別化はどのように考えましたか。
守田:本作は、いわゆるPC向けMMORPGに根ざしたタイトルとなります。開発当初からグラフィックの質を上げることに集中していましたが、往年のMMORPGの魅力でもある”ジョブ(職業)の役割“や得意分野を変更できる「特性」を意識したゲームシステムを採用しています。
たとえば、キャラクター作成時に選択できるジョブ(職業)には、それぞれ3種類の「特性」が存在し、ゲーム内で条件を満たすことで、使用スキルを変えることができます。「特性」にはそれぞれ攻撃役や盾役、回復役などの得意分野が設定されており、パーティメンバーや敵の状況に合わせて、自由に変更ができます。
――昨今のスマートフォン向けMMORPGでは、主に海外タイトルとしてスタイリッシュな”アクション“が印象的ですが、それとは異なりパーティの役割や立ち回りなど、MMORPGの原点に根ざした内容を取り入れているのですね。
守田:はい。加えてスマートフォン向けMMORPGは操作が大変なので、『ETERNAL(エターナル)』では移動だけでなく、自分で選んだスキルやアイテムを使用したり、戦闘もオートでこなせる「戦術」が存在します。クエストやレベル上げ、状況に合わせたオート戦闘時の行動を設定することでライフスタイルに合わせて楽しめます。
そのほか『ETERNAL(エターナル)』では、ソロ志向のプレイヤーでも安心のマッチング方式を採用しており、事前にパーティを集める必要がなく、思い立ったその時に参加希望者内でマッチングが行われ、どんな場所からでもダンジョンに集結できます。もちろん、仲の良いフレンドとパーティを組んでダンジョンに挑むことも可能です。
――パーティ内で自分の役割を全うする楽しさは、PCで体験したMMORPGの魅力そのものですね。また、メインビジュアルやキャラクターデザインは天野喜孝さんを起用されました。これにはどのような経緯が。
守田:実は、開発が2年目に差し掛かるタイミング、まだメインキャラクターのデザインが決まっておりませんでした。内製も考えましたが、新生MMORPGとして打ち出していく際に、著名な方にご依頼しようと天野先生にお声がけさせていただきました。


北村:ご存知の通り、天野先生は世界的にも有名なアーティストです。これほど著名な方を起用させていただき、プロモーションを展開していくのは前例がなく、初めての試みでしたが、『ETERNAL(エターナル)』はアソビモとしても力の入ったタイトルのため、天野先生にご依頼させていただきました。
また、LUNA SEAさんや、ゲーム楽曲を担当されているMOMACAさんなど日本を代表するクリエイターの方々で外側(プロモーション)を固め、日本を代表するMMORPGとしてブランディングしていきました。
――日本代表するロックバンドのLUNA SEAの起用にも驚きました。
守田:実は今回ご依頼させていただくにあたり、作曲を担当したLUNA SEA のSUGIZOさんとも一緒に食事に行きました。その際、資料や実機アプリをお見せしながら、ゲームの説明、世界観、キャラクターの特徴などを伝えていきました。そこでイメージを膨らませていただき、完成したのが、書き下ろし楽曲の「PHILIA」になります。
▲主題歌「PHILIA」に併せたゲームPV。
――リリース前のマーケティング施策について、どのように戦略を練りましたか。
北村:やはり『ETERNAL(エターナル)』の世界観を伝えるコトに、シンボルともいえる天野先生のイラストをどう活かすか、でした。たとえば、2020年10月29日に開催した「リリース日公開イベント」では、会場に天野先生が描いた素晴らしいイラストの数々で彩り、キービジュアルに至っては横3メートルのサイズで展示しました。メディアの方々にも撮影していただき、良い空間を創れたのではないかと思います。
「著名な方を起用しているから」というだけではなく、「素晴らしいイラストだから」この世界観を最大限伝えたいという想いが強かったからですね。個人的にも、天野先生のファンですので、こだわれたのだと思います。

守田:あの発表会の会場作りは最高でしたね。
北村:喜んでいただけて良かったです(笑)。通常の記者会見等では、そんなデザインにはしないのですが、今回は4.5メートルほどのバックボードを作り、そこに『ETERNAL(エターナル)』のロゴを目立つように配置しました。会場では、迫力あるイラストにゲストの方々も撮影してくれたのが嬉しかったですね。

▲2020年10月29日に行われたメディア向けリリース日公開イベント。ヒロイン「アステル」役の声優・大西亜玖璃さんが司会を務め、公式アンバサダーに就任した三代目J SOUL BROTHERSのELLYさん、そしてLUNA SEAのSUGIZOさんが登壇しました。
守田:『ETERNAL(エターナル)』のターゲット層は、過去にPC向けMMORPGを遊んでいた方をメインに据えており、年齢では20代後半から40代前半です。そのターゲット層に合わせて、マーケティング施策も熟考していきました。
北村:私も施策のクリエイティブを考えますが、守田がデザイナーということもあり、最終的に形にしたいものを調整してくれるので、こだわりぬいたものを提供できたのは、非常にやりやすかったですね。僕ら自体が、互いに“『ETERNAL(エターナル)』のターゲットユーザー層”であることも大きな要因だったと思います。
――変化球な企画も大事だとは思いますが、今回はそれを抑えつつ「これを見て欲しい」という所を全面的に押し出したのでしょうか。

北村:そうですね。イベントにおいても、ゲームに縁のある方や、ユーザーが納得するようなゲストを起用しよう、と配慮しています。また、一度延期という形でユーザーを裏切ってしまった経緯があるので、「待っていたよ」と言ってもらえるようなプロモーションを意識しました。
――これまで数回CBT(クローズドβテスト)が行われましたが、ユーザーの反応はいかがでしたか。
守田:ゲームについては、ポジティブな感想が比較的多かったです。なかでも、グラフィックとサウンド周りが好評でした。また、MMORPGにおいてゲームバランスは重要な要素なため評価が分かれたりするのですが、それも概ね好評で良かったです。
――2020年12月1日~13日には、著名人やメディア、配信者のみが参加できる「メディア向けβテスト」が行われます。
北村:はい。リリースからメディアや攻略サイトが一斉に走り出すことを考えると、撮影など落ち着いてできなかったりするため、特定の期間で遊べる環境は用意するべきだと提案させていただきました。メディアや攻略サイトの情報が事前に充実していれば、いち早くスタートダッシュをかけたいユーザーさんたちにとってもプラスに働くものだと考えています。
また、同時期に著名人にゲームをプレイしてもらう生放送企画を計4回実施しますので、是非そちらをお楽しみにして頂ければ幸いです。

ユーザーへの“サプライズ”を忘れない
――ここからは『アヴァベルオンライン』についておうかがいしていきます。昨今、海外発のスマートフォン向けMMORPGが国内で続々リリースされるなか、先駆けて同ジャンルを打ち出しただけではなく、正式リリースから7周年を迎えるというのは類を見ないと思います。
北村:ありがとうございます。
――まずは現在のユーザー層について教えてください。
北村:過去、オフラインイベントでユーザーさんにお話を聞いた際は、意外にも格闘ゲーム好きな方が多いことがわかりました。一方で、弊社のほかのMMORPGタイトルである『トーラムオンライン』や『アルケミアストーリー』などに関しては、コミュニケーションが好きなユーザーが集まっていると思います。
一口にMMORPGといっても、世界観や遊び方ひとつでユーザー層が大きく異なるため、必然的にマーケティング施策もジャンルで区切ることは難しいですね。
どんなゲーム運営もそうですが、なかでもMMORPGはユーザー動向を長期的に見ていくのが特徴だと思います。目先の数字に振り回されず、長い時間をかけてユーザーを分析する必要があり、タイトルはもとより、遊んでいる時間やゲーム内の進行度に応じて、プロモーションを仕掛けていくことが重要だと思います。
――長期運営タイトルでもある『アヴァベルオンライン』ですが、マーケティング施策において注力していることはありますか。
北村:コラボ施策については力をいれており、マーケ・開発等チームに関わらず実現に向け動いています。マーケターとしての役割は、ゲーム開発・運営側が成果を出したとき、さらにそれらを増幅させる装置として機能する、いわば掛け算のような存在だと思っております。弊社では、マーケチームが施策だけでなくゲーム内の企画などにも関わる点は、業界的にも珍しいことではないかなと感じています。

――マーケティング施策で一貫したコンセプトなどはありますか。
北村:大事にしているのは「ユーザーサプライズ」です。MMORPG自体がコミュニケーションツールですので、笑わせたり、驚かせたり、感動させたり、ユーザーに向けたサプライズへつながるよう心掛けています。
MMORPGを長期運用していると、アップデートの内容もレベルキャップの解放や季節イベントなど、良い意味でも悪い意味でもルーティン化してしまいます。そのため、飽和状態にならないよう、コラボ施策を取り入れるようにしています。ちなみに次のコラボ先は「NO MORE 映画泥棒(※)」です。

※NO MORE 映画泥棒:映画館において上映前に流れるマナームービーのCM。映画泥棒と呼ばれる背広姿のビデオカメラ男が、映画を盗撮しようとするとパトランプ男に見つかり逮捕されるというストーリーになっている。
――映画上映前に出てくるアレですか?(笑)
北村:そうです(笑)。コラボは2020年11月25日(水)から始まります。
――まさかのコラボ相手で、まさにユーザーサプライズですね。
北村:MMORPGは「このアバター面白いよね」など、ユーザー同士の交流がゲーム内外で盛んに行われています。コラボイベントに珍しいアイテムや、エモーション(感情表現)を取り入れることで、ゲーム内の滞在時間が増えたり、SNSにネタ投稿したりと、副次的な効果が見込めるものだと考えています。そうした思想のもと、マーケチームとプロデューサーが考えて出てきたコラボ先が「NO MORE 映画泥棒」だったのです。
ちなみに、2020年9月に実施したマグロの衣装とサンマの武器もとても反響がありました。
――たしかにMMORPGとのコラボは、見た目や武器を面白ければ写真映えするため、キャンペーンでは強みになりますよね。ほかにも好感触だったマーケ施策はありますか。
北村:今年はコロナ禍で精力的に開催できなかったのですが、小規模なオフラインイベントにも力を入れておりました。過去、マーケチームの担当とプロデューサーの星野(※)が2人で全国行脚しようと動いた際は、東京の他にも「博多」「大阪」「名古屋」「仙台」と各都市を巡り、多くのユーザーと意見交換をしました。
※星野武士:「アヴァベルプロジェクト」の総合プロデューサー(アソビモ所属)。
――守田さんは『アヴァベルオンライン』の開発段階から成長、運用までみてきたと思いますが、実際にどのような印象を持っていますか。

守田:まず開発目線としては、完成後のグラフィックに衝撃を受けました。「本当にMMORPGがスマホで出来るんだ…」と。たしかに現在はさまざまなMMORPGタイトルがありますが、同じ会社の人間として手前味噌ではありますが、先駆けタイトルとして業界に強烈なインパクトを与えたといっても過言ではないと思います。
入念な改善で気付いたASOの重要性
――長期運営タイトルの『アヴァベルオンライン』ですが、なにか流入において意識されているところはありますか。
北村: ASO(App Store Optimization – アプリストア最適化)については、“MMO”と“MMORPG”と“オンラインRPG”などキーワードで検索した際、上位1位から3位以内にランクインするようになりました。些細ですが、重要なことでした。
また、CVR(Conversion Rate – 顧客転換率)の改善についてはなかなか本腰を入れることができず、課題を抱えていましたが、アプリ運営やASOに長けたマイネットさんの協力を仰ぎ、さまざまなご提案をいただき実施した結果、数字が劇的に上がりました。
なかでもGoogle Playの公式機能であるA/Bテストを実施したところ、30日間でのオーガニックインストール数は前月比で+170%に伸びました。以降、スクリーンショットの改善なども行ったところ、こちらも良い効果が出ました。

――御社では、数多くのMMORPGタイトルを運営されています。今回の事例を踏まえて、ほかの既存タイトルでも実施することで、一定の効果も見込めるのではないでしょうか。
北村:はい、その可能性は高いと思います。既存タイトルはどれも“長期運営”に該当するため、長年使用していたアイコンやスクリーンショットを変更することは、ユーザーの印象といった面でも勇気が要ります。効果のあった事例をそのまま踏襲するのではなく、各タイトルに紐づいた数値の把握、分析をしたうえで、実施していくことが大切だと思います。
――ASOは当たり前かつ細かい改善ではありますが、ついつい見過ごしがちな部分かもしれませんね。
北村:本当にそうだと思います。8年目を歩む『アヴァベルオンライン』でも、自然流入数を増加できるという証明にもなりましたし、ここで得られた知見は、新作『ETERNAL(エターナル)』にも活かせていければと。
――業界広しといえども、スマホ向けMMORPGに特化した企業はあまり存在しないと思います。なにかアソビモ社ならではのマーケティング思想があれば教えてください。
北村:我々というより、代表の思想でもありますが、顧客のニーズを掴むのが早いことです。いま世の中でなにが流行っているのか、そしてそれを素早くコンテンツに落とし込んでいく。現場における意思決定もとにかく早いです。ときには、ハイリスク・ハイリターンのこともありますが(笑)このスピード感をつねに意識して業務に臨んでいます。
――昨今のスマートフォン向けMMORPG市場についてどのように捉えていますか。
北村:数年前まではあまり認知されていない、コアユーザー向けのジャンルでしたが、海外をはじめとしたタイトルの参入により、徐々にプレイヤー数は増加してきました。
昨今のスマホ向けMMORPGは、「美麗」「フルオート」「スピード感のあるアクション」を推しにしたタイトルが多くリリースされておりますが、『ETERNAL(エターナル)』には、いわば“往年のPC向けMMORPG”のような雰囲気が残っていると思っています。
守田:まさに、その要素を『ETERNAL(エターナル)』にこめました。なかでもジョブにおけるバトルでの役割・立ち回りについては、往年のPC向けMMORPGを彷彿とさせる仕様になっていて、文字通り、ロールプレイができるゲームに仕上がっています。
『ETERNAL(エターナル)』は、ほかのMMORPGタイトルと比較されることもあります。それでも、我々が目指したMMORPGの形もまた正しいものだと信じています。硬派なロールプレイが楽しめる、日本独自のMMORPG『ETERNAL(エターナル)』を、ぜひ楽しんでもらいたいです。
――:本日はありがとうございました。

⇒ アソビモ株式会社
取材・執筆:原孝則、山崎友喜
撮影・編集:NEXT MARKETING編集部
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