iOS 14以降に起きると予想される「スマホゲームマーケティングの変化と展望」…3社のキーマンに訊く

2020年のApple社の発表にあった通り、iOS 14以降はデジタルマーケティングの転換期になります。なかでも注視されているのは、IDFA(広告ID)取得のオプトイン必須化です。

iOS 14 SDKがIDFAを利用して広告配信や広告の効果測定を行う場合、アプリ内でユーザーに対して利用の同意を求める必要があります。同意しなかったユーザーのIDFAは取得できなくなるため、iOS端末におけるターゲティング型広告を含む広告配信が難しくなると予想されています。

すでにiOS 14は2020年9月に実装済みですが、上記のIDFA取得のオプトイン必須化は「2021年はじめ」に延期されたとのことです。

iOS端末は、国内スマートフォン所有者の半分が該当されるといわれており、当然、ゲームアプリにも多大な影響を与えることが懸念されています。IDFAは各種媒体とも紐づけされており、新規ユーザーの獲得はもとより、休眠ユーザーに対するアプローチなど、データが取得できないことからターゲティングが困難となります。

昨今、ゲームアプリ市場の頭打ち、ショッピングや動画アプリの隆盛による可処分時間の奪い合いなど、より一層「既存ユーザーの継続率・エンゲージメント向上」や「休眠復帰施策」が求められるなか、各社どのような準備・対策を講じているのでしょうか。

本稿では、「ゲームアプリ市場におけるiOS 14以降のマーケティングの変化」をテーマにゲーム企業3社にインタビューを実施。年末年始で多忙を極めるなか、ご対応いただいた企業の皆様につきましては、この場で御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

※インタビューは、新型コロナウイルス感染症の防止を鑑みてオンライン上で実施

 

株式会社アカツキ

CMO
窪田真太郎 氏

――iOS 14以降のスマホゲームマーケティングの変化についてどのように感じていますか。

当然、デジタルマーケティングを中心に大きな影響を及ぼしますが、ある意味でマーケティングの本質に向き合わなければならなくなったと思います。これまでは、「LTV(またはROAS)が合うから」という分かりやすい判断軸を元に予算策定や投資をしていましたが、今後は直接的にLTVが追えないことによって、それが通用しなくなる可能性が非常に高いと思っています。そういう意味では、より俯瞰して費用対効果を見定める必要があります。
 

――今回の件を受けて、組織の変更などはありましたか。

特に大きく変えることは考えておりません。実は、もともと弊社では他に注力領域を定めており、デジタルマーケティングに特化した部隊を設けているわけではありません。もちろん担当者はおりますが、どちらかというと、現在は人員をファンマーケティング施策に寄せています。

デジタルマーケティングは、事業において切っても切り離せない重要な取り組みだと思います。ただし、モバイルゲームにおいて広告よりオーガニックの流入ボリュームが多くなるケースがマジョリティであることを考慮すると、事業に対してのインパクトはムラがあると思います。そのため、人員のコストパフォーマンスを考えたときに、デジタルマーケティングはしっかりと下地を支える守りの役割と考えていました。
 

――現時点で対策などは行っていますか。

組織や施策という面では、特段ありません。強い言い方になってしまいましたが、今の組織体制の延長線上で、対策ができると考えているので、新しくiOS14の対策を考えることはありませんでした。iOS端末でターゲティングができなくなるのは、たしかに企業にとっては痛手です。

ただ、オウンドメディアの企画運営や、インフルエンサーやメディアとの取り組み強化など、さまざまなアプローチで流入する手立てはほかにもあると考えています。iOS14問題はあくまで1つのマーケティング手段のルールが変化しただけで、顧客・市場・プロダクトなどのマーケティングで考えなければいけないことの本質は変わっていないと考えています。

一方で事業成果の判定は明確に変える必要があります。冒頭にもお話しましたが、これまではIDFAを中心にしてSDKで取得できる範囲で計測・評価を行ってきましたが、ここの投資判断や振り返りのロジックは整えていく必要があります。

たとえば、ゲーム内のプレイヤーIDをベースとして、新規流入や休眠復帰を把握し、それを踏まえて事業投資の判断を考えていくことを検討していたりします。リセマラやbotの排除など、さまざまな課題もありますが、現状はこのような形で向き合っていくしかないと思います。
 

――プレイヤーIDをベースとした判断では、現状どのようなものを。

投下コスト、メディアプランとその効果(流入、復帰)の相関を継続的にトラッキングして、全体の傾向を判断していきたいと考えています。たとえば、昔コカ・コーラがTVCMとOOHの効果を判断する際に、元々のメディアポートフォリオとOOHが多いメディアポートフォリオを2期間に分けて、どのような変化があるのかを実験したことがあります。

この事例のように、流入経路ごとの効果が不明瞭になるところを、相関的に見ていくことで効果を明らかにする必要が出てくると思います。ただ、今回のIDFAの変化に限らず、運営が長期化することによってIDFAをベースとしては計測できない領域も多くなってきて、プレイヤーIDをベースとした事業判断は考えなければならなかったので、遅かれ早かれIDFAベースの計測からは脱却しないと行けないと考えていました。
 

――今回のiOS 14問題に限らず、今後マーケティング界隈では、どのような変化が起きると思いますか。

企画やクリエイティブの重要性が増したり、オウンドメディアの活用やユーザーイベントなどのファンマーケティングの重要性が増し、業務内容も変化するのではないかと思います。

また、これまでは施策を考える際に開発・運営側が「来月こういうキャンペーン行います」という内容に対して、マーケ側が宣伝するというフローが多かったかと思いますが、今後はプロデューサーや開発チームと連携して、共に中長期計画を練っていったり、マーケ側からもゲーム内施策と連動した企画やコミュニケーションプランの提案なども積極的に計画し、上流から構築していくことが重要になると考えています。

株式会社アカツキ
https://aktsk.jp/

 

株式会社ディー・エヌ・エー

マーケティング統括部
UXブースト部
副部長
川口隆史 氏

――iOS 14以降のスマホゲームマーケティングの変化についてどのように感じていますか。

まず、これまで蓄積してきたノウハウの中には通用しなくなるものも出てくるだろう、という懸念はあります。特にデジタル広告のターゲティングや計測/効果評価周りは大きくやり方を変える必要があると思っています。

従来の運用型のデジタル広告はテクノロジーを活用したターゲティングや最適化が強みでしたが、今後はユーザの感情を動かすクリエイティブをいかにつくるかといったエモーショナルな部分の重要性が高まっていくと考えています。

また、新規の集客よりも、ユーザーコミュニティの構築や拡大を通じてユーザの熱量維持や情報がより伝搬する仕組み作りなどに施策の比重が寄っていくことになると思っています。
 

――御社では、これまでもコミュニティマーケティングを推進してきました。今回の件を受けて、組織の変更はありますか。

今回の件を受けてというわけではないですが一部検討しています。弊社タイトルの『逆転オセロニア』では、これまでコミュニティを盛り上げていく施策でさまざまなことにトライしてきました。しかし、ここで得たノウハウをすべてほかのタイトルでも適用できたとはまだ言い切れず道半ばです。

今回のiOS 14以降のマーケティングの変化もありより一層コミュニティの重要性が増していくなかで、ノウハウをほかのタイトルでも実践していくコミュニティマネージャーを今まで以上に育成していくことを社内で議論しています。
 

――御社のマーケティング組織は、どのように担当を分けているのでしょうか。

マーケティング戦略を立てマーケ施策全体のディレクションを行うマーケティングプロデューサーの組織と、デジタルマーケティングやコミュニティマーケティングなどの専門領域を担当するスペシャリストが集まった組織に分かれています。

私の所属しているUXブースト部は後者で、マーケティング施策を通じてユーザ体験(UX)を最大化(boost)する、というミッションを掲げています。今回iOS14の影響を大きく受けると考えているデジタル広告を担当しているデジタルマーケティングのチームもこの中にあります。

デジタルマーケチームではデータを活用した広告出稿や効果分析を細かく実施していたので、今回の変化にどこまで対応できるかは大きなチャレンジになると思っています。まだわかっていない部分も多いので、今のところはIDFAの影響によってチーム内の役割を大きく変えることは考えていないです。
 

――予算の変化はいかがでしょうか。

現状、デジタルマーケティングの出稿はiOS比率が高いケースが多いのですが、媒体内の自動最適化がこれまでよりもうまく効かなくなり効果が悪化した場合、Android端末に予算を調整する可能性はあります。3割程度と考えているIDFAをオプトインするユーザの情報をもとにLTVを算出しつつ、SKAdnetworkなどを活用してインストール数を推定してROIを出す、というやり方でどこまで通用するか次第では、運用広告から他のマーケティング施策に一部予算をアロケーションする可能性もあると考えています。

基本的には、広告で新規インストールを獲得するよりも、離脱させないための施策の強化という視点をこれまで以上にもっていきたいと考えています。
 

――具体的に強化している取り組みはありますか。

各専門チーム内の取り組み以外にも、今年度からチーム横断でプロジェクトを立ち上げ、いくつかの新規の取り組みを進めています。

一つ目はインフルエンサー施策です。単純にタイアップ動画を依頼する一過性なものだけではなく、継続的にタイトルを盛り上げていけるような取り組みをインフルエンサーと一緒にできないか、プロジェクト化して検討を進めています。

また、プッシュ通知の承諾率向上やアプリ内メッセージをユーザーごとに分けるなど、ゲームの面白さが伝わらず辞めてしまわないように、魅力を訴求していくアプリ内のマーケティング機能の強化も推し進めています。そのためには、ゲームアプリの開発・運営側とのコミュニケーションがより求められるものだと思います。

株式会社ディー・エヌ・エー
https://dena.com/jp/

 

株式会社WFS

Marketing部 シニアマネージャー
小泉義英 氏(写真左)

Marketing部 Digital Marketingチーム マネージャー
加藤耕輔 氏(写真右)

――iOS 14以降のスマホゲームマーケティングの変化についてどのように感じていますか。

加藤:まだIDFAのオプトイン化自体がフルローンチされていないので、不透明なところもありますが、確実に起こりうる変化は、新規や休眠復帰を含めたターゲティング(広告)の精度が落ちることです。これを機に従来の広告の評価は変わると思います。たとえば、特定のユーザー層が集まるコミュニティサービスに出稿したり、アドネットワークの需要が高まったりと、市場全体の評価の付け替えが起きるのではないでしょうか。

小泉:加藤も指摘している通り、やはりデジタルマーケティングへの影響が大きいです。私は現在コミュニティマーケティングを担当しているのですが、その分野では直接的な影響はありません。ですが、予算や人員のあて方やその比重に関しては、デジタルマーケティングの状況を鑑みて調整する必要がありますし、よりコミュニティマーケティングの重要性は高まってくるものだと考えています。
 

――予見される変化に対して備えていることはありますか。

加藤:デジタルマーケティングでは、フルローンチ後に課題視されている「計測」と「配信」の2つの観点で事前に準備を始めています。計測では、これから媒体側がどのような対応をするかで変わっていきますが、いくつかあるシナリオに合わせて、直近の実績数値などを使いシミュレーションを行っています。

配信では、FacebookやGoogleなどの質の高いターゲティングが多少難しくなる可能性があります。ターゲティングの精度が落ちた場合に、どういった数値感になるかは、一部予算を使用してできる範囲でテスト配信をしています。

また、これまでプッシュ通知やインゲーム動画広告は独立した施策でしたが、今後は広告データを紐付けることで効率化していきたいと思います。
 

――コミュニティマーケティングのほうではいかがでしょうか。

小泉:今回のテーマ(iOS 14以降のマーケティングの変化)に限らず、もともと弊社ではコミュニティマーケティングに力を入れてきました。2020年はコロナ禍でオフラインの施策は難しかったですが、オンライン上でもお客さまと開発・運営側、ひいてはお客さま同士の相互コミュニケーションが生まれる場を提供できるよう努めていきました。

たとえば、弊社のタイトルである『アナザーエデン 時空を超える猫』と『ダンまち〜メモリア・フレーゼ〜』では、2019年の発信媒体がYouTubeとTwitterのみでしたが、2020年にはスマホでゲーム配信ができる「Mirrativ」や、弊社(グリー)が運営しているクラウドファンディングの機能を備えたファンコミュニティ・プラットフォーム「Fanbeats」など、さまざまなサービスでコミュニティマネージャーが運用する公式アカウントを立ち上げて、お客さまとの接点を増やしていきました。

Twitterでは、お知らせ情報を伝える公式アカウントだけではなく、開発・運営側のエピソードを発信したり、お客さまへコメントを返信したり、相互コミュニケーションが生まれるようなアカウントも始めています。そのほか、WEB会議サービスを活用して、オンライン上のファンミーティングの定期的な開催も進めています。コロナ禍でオフラインイベントの開催が難しくなったいま、オンライン上でも交流できる術を模索しており、その第一歩がこの取り組みになります。

コミュニティマーケティングを通して伝えられるお客さまの母数は少ないですし、KPI設計も難しいものです。しかし、デジタルマーケティングではアプローチできない熱量の高いお客さまに届きますし、小さいながらも強固なコミュニティを作れるきっかけを担います。このように、2021年以降はよりファンの熱を高める施策に振り切ることを意識しています。
 

――組織の変化はいかがでしょうか。

小泉:数年前からデジタルマーケティング、コミュニティマーケティングのミッションを明確に分けた組織で動いています。iOS 14以降の課題をきっかけに組織を変更したわけではなく、WFSのマーケティング戦略上必要な動きだったのですが、結果として、いまは(組織も含めて)良い方向に向かっているものだと考えています。

加藤:これまでは、デジタルマーケティングの領域でもオンライン出稿、プッシュ通知、アプリ内動画広告などは、別々のチームで運用されていることが多く、あまりデータが蓄積されてこなかった課題がありました。

それを、現在は画像のようなサイクルでお客さまの行動データを集約しています。

加藤:これも今回のことがきっかけというわけではなく、すでに1年以上かけてデータの統合及び利活用できる形までの整備を、マーケ側をはじめ開発・運営側とも協力して進めています。出稿で得たデータをきちんとプッシュ通知でも活用、その後流入したお客さまを動画広告でマネタイズなど、うまくサイクルにつながるよう考えています。
 

――御社独自のユーザーデータとして、今後のマーケティングでも活用できるということですね。

加藤:はい。どうしてもデジタルマーケティングはIDFAの影響を受けてしまいます。ただ、それ以外の変わらないデータも当然あるため、ほかのデータと照らし合わせながら、マーケティングのアプローチを考えていければと思います。

株式会社WFS
https://www.wfs.games/

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でフォローしよう!