【×Marketing】vol.9
アイドルの華やかさと泥臭さを魅力的に描いた『IDOLY PRIDE』。ユーザーと二人三脚で歩んだマーケティング術とは

ゲームアプリ市場における先進的なマーケティング施策を取材した企画「×Marketing(かけるマーケティング)」。“掛ける(相乗効果で可能性無限)”と“駆け抜ける(新しい挑戦/気概)”をコンセプトに、習慣化しがちなゲームアプリ市場のマーケティング施策について、最新事例はもとより、一般化につながるノウハウをマーケターたちにお聞きしていきます。

株式会社QualiArtsが開発・運営を行っている『IDOLY PRIDE(アイドリープライド)』は、アイドルとの絆を深める「電話」や「メッセージ」、成長に合わせて豪華になる「3Dライブ」といった、従来のアイドル育成ゲームとは一線を画するシステムやコンセプトが話題となり、リリース後1日でApp Store・Google Playの無料ゲームランキングで1位を記録するなど、新規IPとは思えないほどのスマッシュヒットとなっています。

特にマーティングにおいては、アプリリリースに先駆けたテレビアニメの放送やイベント、SNSを活用した施策など、様々なメディアミックス施策を展開し、話題を呼んでいます。

第9回は、そんな『IDOLY PRIDE』を運営する株式会社QualiArtsより、マーケティング担当の木村氏とディレクターの鈴木氏のお二人にインタビューを実施し、そのマーケティング術を取材しました。

鈴木雄一朗氏(写真左):株式会社QualiArts、ディレクター。
木村泰之氏(写真右):株式会社QualiArts、マーケティング責任者 。

 

[Topics]
■アイドルの輝く表舞台と泥臭くも魅力的な裏側のコントラストを表現
■ユーザーと二人三脚で歩んでいくマーケティング術
■ユーザーが自分からコンテンツを発信できる環境を作る

 

アイドルの輝く表舞台と泥臭くも魅力的な裏側のコントラストを表現

――本日はよろしくお願いします。まずはお二人の自己紹介からお願い致します。

木村:株式会社QualiArtsでマーケティングを担当しております、木村泰之です。『IDOLY PRIDE』では、アニメ・ゲーム問わずメディアミックス全体プロモーションや広告出稿のディレクションを担当しています。他には、Twitter投稿管理やYouTubeのコンテンツ管理、ゲーム情報に関わる生放送のコンテンツ連携など幅広く携わらせていただいています。

鈴木:『IDOLY PRIDE』プロジェクトでディレクターを務めている、鈴木雄一朗と申します。ゲームの企画から開発の仕様作成・進行など、ゲーム側のディレクションをメインにさせていただいています。
  

――どのようにして『IDOLY PRIDE』が生まれたのか、これまでの開発経緯を聞かせてください。

木村:発端は、自社でオリジナルIPを0から作り、メディアミックスでチャレンジするという話から生まれました。

現在、新規でアプリゲームを作る場合、一定のファンを抱えている既存の人気IPをゲーム化し、ヒットの成功率をあげる戦略が増えてきています。そんな市場の潮流がありつつも、思い切って自社でオリジナルIPを作り上げて市場で勝負してみようという思いがありました。

鈴木:公式発表(※)の前から、プロジェクトをメディア側とゲーム側に分けて進行していました。メディア側は先行してアニメやシナリオを進め、追うようにしてゲーム側の本開発がスタートしたという流れです。

※公式発表:2019年11月27日、サイバーエージェントの連結子会社であるQualiArtsとミュージックレイン、ストレートエッジの3社共同プロジェクトとして、大型アイドルプロジェクト「IDOLY PRIDE」が発表された。
  

――アイドル物はすでにレッドオーシャンのイメージがありますが、そのような市場にあえて飛び込んだ理由とは?

鈴木:仰るとおり『アイドルマスター』シリーズや『ラブライブ!』シリーズといった、市場のトップに君臨しているコンテンツがあるため、レッドオーシャンだという認識は確かにありました。

だからこそ同じような”音ゲー(音楽ゲーム)”を作っても勝てないと判断したうえで、開発の際には、今あるコンテンツと戦ってもユーザーの需要を満たせるものはなにか、「コンテンツの差別化」という部分を特に議論しました。

QualiArtsの強みのひとつは”美少女3Dコンテンツ”にありますが、そこを推すだけのシンプルなゲームだとオリジナルIPとしては弱いです。だからこそ、メディアミックスによってゲーム、アニメ、ライブなど様々なものを同時進行しながら、オリジナリティのある作品に仕上げようと決めたんです。

木村:例えば、いわゆるアイドル系コンテンツは、キャラクターたちがライブでキラキラしているシーンを見せるのが一般的です。『IDOLY PRIDE』の場合、それと同時にアイドルたちの裏側の部分も見せて、コントラストを出したいと思ったんです。

そこで、”表のきらめき”と”裏の努力”、アイドルの光と影の部分のような「二面性」を表現することを作品全体のコンセプトとし、汗をかいて苦悩の顔を浮かべる女の子のイラストを、最初のキービジュアルとして出しました。また、発表当初のキャッチコピーも “舞台裏のドラマが、ステージを輝かせる”と、まさに二面性を訴求したものにしています。

▲プロジェクト発表時に公開されたキービジュアル。汗をかき、苦悩するアイドルを描いたことで、他作品と一線を画する内容を予見させた。
  

――たしかにキービジュアルを見ると「どんな作品なんだろう」と興味が湧きますね。実際、ゲームのライブシーンでもキラキラした光の演出はもちろん、汗の描き方も印象的でした。こちらもコントラストを意識しての演出なのでしょうか。

鈴木:そうですね。華やかなライブシーンと対照的に、泥臭い部分やアイドルの裏側などをリアルに描いていくためにはどうすればいいか。プロジェクト初期にメンバーから出た意見のひとつが”汗の表現”だったんです。

木村:ゲーム外でもコントラストは意識していました。例えば、昨年の単独ライブを行った際、声優さんによる舞台上のパフォーマンスのほかに、楽屋の様子やライブ前の円陣の写真を撮影して公式Twitterにアップし、本番前の緊張感をマネージャー(※)の皆様に見てもらうという試みも行いました。

※本作では、ユーザーをマネージャーとして表現しているため、以下マネージャーと表記。
  

――偶像的な存在というよりも、”リアルなアイドル”を見せていく方向性だったんですね。ゲームでは、プレイヤーはアイドルのマネージャーとして活動しますが、こちらも勤怠記録や給与明細が貰えるといったリアルな一面が描かれていて驚きました。

鈴木:なるべくリアルなマネージャー体験を生み出したいというのは、開発初期からコンセプトのひとつとして決まっていまして。どういうコンテンツがあれば本物のマネージャー感が出るかという観点から、勤怠や給料システムなどのアイデアが上がりました。

一番大切なのは、マネージャーの皆様に毎日ログインしていただくことと、そのフィードバックを行うことです。その魅せ方のひとつとして勤怠記録と給料システムが生まれたのですが、よく考えると毎日出勤するのはブラックに見えてしまうが、かといって休日だけログインしないというのも本末転倒なので、そういう部分ではリアルさよりもゲームとしての体験を重視しました。

ただリアルに寄せれば面白くなるというわけではないので、ゲームとして楽しめるラインやバランスは特に気を使いました。ゲームデザイナーが、最適なバランスを考えてくれたおかげで成立しています。

――開発時にあった議論や課題には、他にどんなものがありましたか。

鈴木:1枚のスクリーンショットからゲーム内容が想像しにくいのでは、という懸念がありましたね。毎日プレイするうちに、自然とプレイヤーのライフスタイルに組み込まれていくのがこのゲームの良さなのですが、まず始めてもらうためにその面白さをどう伝えたらいいのか、ファーストインパクトが難しい部分でした。

『IDOLY PRIDE』は、その部分をメディアミックスで補完し、キャラクターやストーリーなどの魅力をマネージャーの皆様に知っていただけるような状況を作ることができました。
  

――メディアミックスの施策はどのように進められたのでしょうか。

木村:全体のメディアミックスを考えた時、アニメは”物語の入り”の部分のため、世界観やストーリーの表面的な部分をしっかりと演出。ゲームでアイドルのひとりひとりを深堀するという構成にしました。さらに、ゲームではアニメと同じ時系列の裏であった出来事を描写していて、両方に触れることで作品全体をより掴めるように工夫しています。

また、アニメで描かれた以前の話をコミカライズでチラ見せしたりと、『IDOLY PRIDE』全体のストーリーや世界観を各コンテンツに散りばめた感じですね。
  

――主軸はありつつも、様々なコンテンツで世界観を広げていくというイメージでしょうか。メディアミックスを実際に仕掛けて見えてきたメリットとは?

木村:最も感じたのは”会話量の増加”ですね。アニメが話題になればなるほど、当然ゲームもやってみようというユーザーが増えます。『IDOLY PRIDE』も、ゲームのリリース前にアニメで”盛り上がれる土台作り”に成功していた実感があるので、なによりもアニメ放送による会話量の増加がメリットとしては大きかったと思います。

▲ゲームのリリース(2021年6月24日)に先駆けて、アニメは2021年1月10日より放送を開始した。
  

ユーザーと二人三脚で歩んでいくマーケティング術

――続いて、作品のマーケティングコンセプトについて聞かせてください。

木村:本プロジェクトのマーケティングにおいて、最も大事にしているのが”マネージャーの皆様の声”です。一般的にはゲームリリース後にユーザーさんへケースインタビューを行うことが多いと思いますが、『IDOLY PRIDE』では、ゲームの開発途中やアニメ放送時、ゲームリリース後など、様々な場面で積極的に行っています。そして現場で出していただいたご意見は、マネージャーの皆様が本当に求めているものとして非常に大事にしてしているんです。
  

――リリース以前、ケースインタビューを行うユーザーはどのように選びましたか?

木村:基本的には公式Twitterをフォローしてくれているマネージャーの方です。プロジェクト発表時からTwitterアカウントを開設したのですが、その際、楽曲の製作陣や声優さん、キービジュアルなどを同時に公開しました。初期からタイトルに興味を持っていただいたコアファンが、万単位で付いてきてくれたんです。

その方たちを対象に「ゲームのコンセプトはこのように考えているんですが、どう思いますか?」という風で、直接ご意見をいただきました。時期的には2020年の早い段階からですね。
  

――具体的にはどのような意見が得られましたか?

木村:「リアルな体験がしたい!」という意見を多数いただき、我々の考えていた路線が間違いないことを確信しました。

また「アイドルの煌めくような舞台はもちろん、その過程にある努力や苦悩などの裏側の要素も見たい」という意見も多かったです。そのためビジュアル面やゲーム要素にしっかりと反映させようと考え、メッセージや電話機能といった実装したコンテンツを形成する礎になっています。

▲ゲーム内ではキャラクターとメッセージや電話でやりとり可能。まるで実在している人物のようなやりとりができる。
  

――ユーザーへのアプローチは、他にどのようなものがありましたか?

木村:去年(2020年)の11月に単独リアルイベントを行い、特別にアニメの第1話を先行公開しました。来ていただいたコアユーザーたちに良いアプローチができましたし、なによりこちらからマネージャーの皆様への感謝を伝えることができたかなと思います。
  

――ファンを大事にしているという姿勢が伺えますね。これまで実施したマーケティング施策の成功例をいくつかご紹介いただけますか。

木村:最も上手くいったと思う施策は、ゲームリリースに向けて、情報を出す頻度と、その内容の深さを意識した部分です。アニメ放送前には、年に2、3回のライブや生放送などのタイミングで情報を一気に出していました。公開できる情報は限られているので頻度こそ増やせませんでしたが、1回1回の情報量の深さを持たせるように意識していましたね。

アニメが始まると、週1回ユーザーにコンテンツをお届けできるので、それに合わせてアニメで初公開された楽曲を配信したり、新MVを公開していきました。リリースに向けてどんどんコンテンツについての情報公開の頻度を短くし、最終的に毎日ゲームを遊んでもらう、常にコンテンツに触れている状態に繋げるような構成にしています。
  

――やはり、手ごたえはありましたか?

木村:ありました。ほかにも、ゲーム性の分かる公式PVを、あえてリリース11日前に公開したことも功を奏しました。それまではゲームジャンルとキャラクターくらいしか発表していなかったんです。早い段階で”放置要素のあるゲーム”という情報を出すと、部分的な解釈をして離れてしまうユーザーがいるのではと。だからこそ、ギリギリまで伏せて作品への期待値を上げる判断をしました。

実際にリリースしたあと、懸念点であった「リズムゲームじゃないの?」といったご意見はほとんどなく、逆に多くの方に「リズムゲームじゃなくて良かった」と好意的に捉えていただけました。これまで積み重ねた施策1つ1つが、その状況を作ることができたと確信しました。
  

――逆に苦労した点は?

木村:アニメ放送後からゲームリリースまでの期間(※)ですね。この間はマネージャーの皆様のアニメで盛り上げた温度が下がるのを懸念していたので、SNSを活用してゲームリリースまでコンテンツが途切れないように工夫しました。

※:アニメ放送終了が2021年3月28日、ゲームのリリースが2021年6月24日のため、約3ヶ月の開きがあった。
  

具体的には、毎週月曜日は”音楽の日”として新MVを公開、毎週水曜日は”イラストの日”としてゲームのイラストを新規に公開するというように、曜日によって公開情報をフォーマット化したんです。ゲームのリリースまでの約3ヶ月間続けた結果、うまく定着してくれたので、ほっとしました。
  

――情報公開のタイミングが定着すれば、ファンも楽しみながら待てますね。

木村:曜日ごとによる定期コンテンツの公開のほかにも「おはようアイプラ」と名付け、4コマ漫画を毎朝7時に出していました。狙いとしては『IDOLY PRIDE』の持つ放置系の要素を踏まえ、マネージャーの皆様が溜まった資源の回収を毎朝するというゲーム体験から、1日の中でコンテンツに最初に触れる機会を朝にしたいという思いがあったためです。気分的には朝刊に載っている4コマを読むようなものですね。


――ちなみに、コロナ禍が直撃したことで、苦労された部分は?

鈴木:一番大きいのは、去年計画していたライブが2回中止になったことですね。イベント関連が軒並みできなくなってしまったので、当初予定していたロードマップから大きく内容が変わってしまいました。想定していたライブの盛り上がりを、どうにか工夫してマネージャーの皆様にお届けできたらという気持ちでしたね。

木村:マネージャーの皆様と定期的な接点の場として、リアルイベントを大事にしたいという思いが強かったんですが、これまで限られた回数しか実施できません。それでも、何かマネージャーの皆様に見てもらいたいという思いから、去年の生放送では、実際に声優さんに舞台衣装を着ていただき、歌唱してもらうバーチャルライブを実施しました。

他にも、マネージャーの皆様とのつながりを大事にしたいと考えていたので、TwitterなどのSNSでの情報発信を通してマネージャーの皆様とのコミュニケーション回数を増やしていく方向に舵を切りました。実際コロナ禍で功を奏した、ということはありませんが、コロナ禍だからこそどうするかをしっかりと考え、行動した次第です。
  

ユーザーが自分からコンテンツを発信できる環境を作る

――マーケティングに関して、今後の課題をお聞かせ下さい。

木村:初期のユーザー規模を2倍、3倍にしていく時、さらに新しい層を獲得する必要があります。その際、今のコンセプトのままで刺さるのかという懸念があり、中長期での目線のターゲット層をどこに設定するかが課題となっています。

また、ユーザーコミュニティの強化も課題のひとつですね。例えば、マネージャーさんがゲームプレイを配信サイトに上げて、仲間とコミュニケーションが取れる仕組みを作る、Twitterでお気に入りのゲーム内の写真をシェアする、など。企業発信だけでなく、マネージャーの皆様がコミュニティを作れる状態にすることが、今一番やりたいことですね。
  

――課題に対して、具体的に取り組んでいることは?

木村:直近ですと、「ミラティブ」での実況キャンペーンを実施しました。『IDOLY PRIDE』を実況しながらプレイしていただく仕組みを作れたので、これが定着化していけばさらにゲーム実況が盛り上がると考えています。

他には、Twitterで特定のハッシュタグをつけてゲーム内の写真のキャプチャを投稿するコンテスト形式のキャンペーンも取り組んでいます。投稿のなかには1,000単位のいいねがついた投稿もたくさんでてきて、マネージャー同士が称賛し合う良い取り組みができたと思います。マネージャーの皆様が自ら発信しやすい場を公式として提供していくことが重要だと感じました。
  

――ゲーム内でも、そういったユーザーの自己表現を広げていく試みを行っているのでしょうか?

鈴木:写真を利用した名刺作りや、それをTwitterに投稿するという機能は元々ありまして、それらをマネージャー同士のコミュニケーションに活用していただくことは、ゲームのコンセプトのひとつなんです。

しかし、まだ弱いかなとも思っています。実際に遊んでどのようなフィードバックがあるのか、どう楽しめるのかというアプローチがまだ足りていません。だからこそ、現在は機能の拡張や新コンテンツの追加によって、ゲームの好きなもの・楽しいものを他マネージャーと共有できるものを絶賛準備中です。ぜひ期待していただけると幸いです。
  

――ユーザー自身から発信するという部分について、メディアミックスでコンテンツが多いからこそ発生する問題はありますか?

木村:コンテンツが多いからこそ、キャラクターや世界観の設定を隅々まで決定してしまいがちです。「公式がこう言っているから、これが正解」という論点でしか会話が生まれず、遊びが無くなって考察ができない自体はもったいないですからね。

そのあたりのバランスは情報発信の頻度や深度を慎重に検討しています。ゲームもまだ始まったばかりですし、今後のストーリー軸も各アイドルのキャラ性などの軸でも、是非活発に議論して、マネージャーの皆様同士で発信して盛り上げてもらえるととても嬉しいです。
  

――最後に、今後の作品の展望をお願いします。

木村:昨年と同様に単独のリアルイベントを実施できれば嬉しいです。昨今の情勢を考えるとなかなか難しい状況ですが、しっかりと安全性を配慮して適切なタイミングで、マネージャーの皆様と一緒にリアルの場でコンテンツを盛り上げる場を作りたいと考えています。その他にもゲーム内外問わず、マネージャーの皆様のご意見や反応からニーズを吸い上げて具体化していきたいです。

鈴木:ゲーム側も9月末から10月に、かなり盛り上がる要素を用意しています。マネージャーの皆様には期待していてほしいですね。
  

――本日はありがとうございました。

 

取材・執筆:長戸勲・寺村一也
撮影・編集:NEXT MARKETING編集部

 

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